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大阪高等裁判所 昭和37年(ラ)20号 決定 1962年10月16日

決   定

抗告人

今井武茂

申立人株式会社興紀相互銀行と抗告人(被申立人)間の、大阪地方裁判所岸和田支部昭和三五年(ケ)第一三号不動産競売事件につき、同裁判所が、同三七年一月三〇日言渡した競落許可決定に対し、抗告人から適法な即時抗告の申立がなされたので、当裁判所は抗告人を審尋した上次の通り決定する。

主文

原決定を取消す。

本件競落はこれを許さない。

理由

抗告人は、主文と同旨の裁判を求め、抗告の理由として主張するところは、「本件競売の目的たる別紙目録記載の物件中の建物は、登記簿上の坪数が四九・三坪となつているけれども、実測坪数は右坪数より二〇坪余広く、その一部を他人に賃貸しているのにかかわらず、右登記簿上の坪数に坪当り金五、〇〇〇円の割合を乗じて算出された金二四六、五〇〇円を右建物の価額であると認定し、これを最低競売価額としてなされた本件競売手続―従つて本件競落許可決定―は違法であるから、右決定の取消を求める」というのにある。

よつて考えてみるに、

一、本件記録によると、申立人(債権者)株式会社興紀相互銀行が、抗告人(債務者)に対して取得すべき貸金債権等の元本極度額二〇〇、〇〇〇円を担保するため、抗告人から設定をうけ、大阪法務局尾崎出張所昭和三二年四月二七日受付第一二二七号をもつて登記をした、別紙目録記載の土地、建物についての根抵当権の実行として、同三五年五月一二日、大阪地方裁判所岸和田支部に右物件の競売を申立て、同裁判所において前記事件として同月二四日競売手続開始決定がなされ、ついで同年六月七日執行吏に対し本件各物件についての賃貸借の取調べを命ずるとともに、鑑定人東勝治郎に対しその評価を命じたところ、右鑑定人が、同年七月八日附鑑定書をもつて、本件土地の価額を金七九、〇〇〇円、本件建物の価額を金二四六、五〇〇円(坪当り金五、〇〇〇円に登記簿上の坪数四九・三坪を乗じたもの)合計金三二五、五〇〇円と評価し、又右執行吏が、同年八月一日附賃貸借取調調書をもつて、本件土地、建物についてはいずれも賃貸借関係がない旨の復命をしたので、同裁判所は、本件土地建物を一括して競売することとし、最低競売価額を前記評価合計額、本件建物の坪数を四九・三坪、本件各物件についてはいずれも賃貸借関係がない等の旨を掲載した競売及競落期日の公告をした上、同年一二月七日から同三六年九月一九日までの間に五回にわたり競売期日を開いた結果)その間最低競売価額が漸次減額され、五回目の際は金二一三、五七〇円とされた。)、許辰及び馬場和夫が共同して最高価(金五六一、〇〇〇円)競買人となつたので、同月二六日の競落期日に、右両名の競落を許可する旨の競落許可決定が言渡されたが、右競買人等において、所定の代金支払期日に競落代金を支払わなかつたため、同年一〇月一八日再競売に付され、同年一一月九日最低競売価額を金二一三、五七〇円としたほか前同様掲載した競売及競落期日公告をした上、競売期日たる同三七年一月二三日に競売を開始した結果、前示競売申立人(債権者)において金二三〇、〇〇〇円をもつて競買申出をしたので、同月三〇日の競落期日に右競落を許可する旨の本件競落許可決定が言渡されたことが認められる。

二、ところで、競売法第二九条により不動産の任意競売手続に引用される民事訴訟法第六五八条が、競売期日の公告に、不動産の表示、賃貸借ある場合におけるその期限、借賃等の額、最低競売価額等を掲載すべきことを規定している所以は、これらの事項を掲載することにより、競売不動産を明確ならしめ、競買希望者をしてあらかじめ競買申出価額の標準を知らしめ、できるだけ有利な多数の競買人を得るとともに、一方において債権者の満足を図り、他方において債務者(物件所有者)の利益を保護しようとするにあり、つまるところは、すべての競売手続における利害関係人の利益を図り、公平適正な競売手続を実施させようとするものである。従つて、競売期日の公告に掲げられた不動産の坪数が実測坪数と著しく異つていたり、最低競売価額決定の基礎となつた評価が著しく適正を欠くものであつたり、或いは、抵当権者に対抗し得る賃貸借が存在するのにその旨の記載がなされていなかつたような場合においては、利害関係人に対して不利益を蒙らせるおそれがあり、公平適正な競売手続の実施されることが望み難いところから、競売法第三二条第二項によつて準用される民事訴訟法第六七四条第二項、第六七二条第四号において、右のような瑕疵ある競売期日の公告に基ずいてなされた競落は、これを許可すべきでない旨規定されているのである。

三、これを本件について考えてみるに、本件競売不動産の内本件建物が別紙目録記載の通り、木造瓦葺平家建居宅建坪四九・三坪と不動産登記簿、及び、家屋台帳に登載されていることは、本件記録中の登記簿及び家屋台帳各謄本によつて明かであるが、抗告人提出にかかる昭和三七年三月六日附大阪府泉南郡岬町長作成の家屋平面図の記載、及び登記簿に、抗告人審尋の結果を綜合すると、本件建物の構造は右表示の通りであるけれども、その坪数は少くとも七三・六坪であり、この坪数は、抗告人が本件建物を買受けた同二九年七月一六日当時とくらべて、その後の改造によつて若干増加されたにしてもこれと大差なく、抗告人において買受後表側半分余を自らの居宅として使用し、裏側半分弱を四戸に間仕切りして、これを表寄りから順次青木一男及び竹若ユキに対し、本件抵当権設定前から各一戸を賃貸している(右両名のほか、市岡某、及び、岡田重男に対し、残りの二戸を賃貸していることが認められるが、その賃貸時期は明確でない。ちなみに、前示鑑定書中にも、本件建物が四分割され、その内の一戸に抗告人が居住し、他の三戸を竹若、青木、岡田に一ケ月賃料一五〇円で賃貸している旨記載されている)ことが認められるところであるから、本件建物は前示公簿上の表示坪数と現況坪数が著しく相違しているものというべく、従つて、本件競売期日の公告に掲げられた本件建物の前示表示は、その坪数において著しく現況と異なるために結局その表示がないのと同視すべきであり、又坪当り単価に公簿上の坪数を乗じて算出された前示評価額―最低競売価額―も適正なものといえないのみならず、賃貸借が存在するのにこれが存在しない旨掲載されているといわねばならないから、右公告は民事訴訟法第六五八条第一号、第三号及び第六号所定事項の記載を欠く不適法な公告であるというほかなく、従つて、かかる公告により開かれた競売期日における最高価競買人に対し、これが競落を許すべきでないことは前説示の理由により明かであろう。

四、そうすると、右瑕疵を看過してなされた本件競落を許可する旨の原決定は失当であり、原審は右瑕疵のない公告(本件建物の表示としてその現況坪数を併せて表示し、再評価をなさしめ、賃貸借関係を明確に調査した上、これらの事項を掲げた公告)をして、適正な競売手続を進行させるべきであるから、結局本件抗告は理由がある。

よつて、民事訴訟法第四一四条、第三八七条、第六八二条第三項、競売法第三二条第二項に則り、原決定を取り消し、本件競落はこれを許さないこととし、主文の通り決定する。

昭和三七年一〇月一六日

大阪高等裁判所第七民事部

裁判長裁判官 小野田 常太郎

裁判官 亀 井 左 取

裁判官 下 出 義 明

物件目録(省略)

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